音楽君のブログ

西洋音楽に関係のある語句紹介をしています。

音楽分析(シェンカー分析)

定義

20世紀の音楽理論家H.シェンカーが考案した楽曲分析の方法で、その後彼の弟子たちがこの分析方法を体系化したもの。弟子たちの分析は「シェンカーふう分析」とよばれて、シェンカー自身の分析と区別される場合もある。

簡単な解説

 シェンカーは作品の構造を前景・中景・後景の3つの層に分け、各層における音の関係を叙述することで、作品の有機的な構造を解明しようとした。

 前景は我々が楽譜で目にする諸音の関係で、中景では前景から「還元」された構造的により重要な音の関係が示される。後景ではさらに「還元」がおこなわれ最終的には、上旋律は3度・2度・1度の下行進行、下旋律はⅠ度、Ⅴ度、Ⅰ度の進行からなる対位法的な楽節へと還元された。

 シェンカーは上旋律を「原旋律」(ウアリーニエ)、楽節全体を「原楽節(ウアザッツ)とよび、この原楽節こそ「傑作(マスターピース)」とよばれる作品の根底にある構造と考えた。

 前景から後景を還元する方法には、構造的に重要な音と従属的な音を区別するために細分化(ディヴィジョン)とよばれる変奏法が逆利用される。経過音、隣接音、協和的跳躍(主として3度と5度の跳躍進行)、分三和音は、従属的な音とされた。シェンカーの分析譜では、重要な音は白音符や棒のつけられた音符で、従属的な音は黒音符で示される。そして原楽節を構成するもっとも重要な音は。連鉤(れんこう)で結ばれる。

 シェンカーは、実際の作品はこの原楽節、つまり主和音が時間的に投影されたものと考え、音楽経験の基底にあるのは、終着点(最後の主和音)へ向かう運動であって、すべてのそうにおいて同じ運動が存在すると考えたのである。つまり、音楽がどのように響くかではなく、どのように聴かれるのかを明らかにしようとしたわけで、このような方法は現象学的方法とのよばれることもある。

 

参考文献

久保田慶一 他 『音楽用語の基礎知識――これから学ぶ人のための最重要キーワード100』 東京:アルテスパブリッシング。

音楽の演奏形態(鍵盤音楽)

定義

パイプオルガン、クラヴィコードチェンバロ、ピアノ(フォルテピアノ)などの鍵盤音楽によって演奏される音楽。

歴史

 ルネサンス時代から声部ごとに別々に記譜されていた多声声楽曲が、鍵盤楽器用の2段譜表やリュートのタブラチュアに書きなおされたことが鍵盤音楽の起源だ。この編曲をインタボラトゥーラといい、声楽曲からのたんなる編曲にとどまらず、楽器の特性を考慮し結合させることを意図していた。

 16世紀になると多くの器楽曲が作曲され、シャンソンからはカンツォーナが、モテットからはリチェルカーレが生まれた。リチェルカーレは模倣を手法とするフーガの前身となった作品で、G.A.フレスコバルディやJ.P.スヴェーリングによって多くの鍵盤音楽が書かれた。

 バロック時代には、チェンバロ通奏低音楽器としてだけではなく、独奏楽器としてもちいられ、鍵盤音楽の発展に大きく寄与した。また、器楽合奏の形式であったソナタも鍵盤音楽作品にとりいられ、D.スカルラッティは600曲にもおよぶチェンバロソナタを作曲した。フランスでは、オルドルと名づけられた、舞曲に由来するフランス独自の趣味と魅力をともなった組曲が好まれ、L.クープランの作品が大きな影響を与えた。ドイツではJ.Jフローベルガーがリュート組曲やフランスの組曲の影響のもとに組曲のジャンルを体系づけた。ドイツではこの時期、オルガンが大規模化して音色(ストップ)と音量が豊かになり、北ドイツのリューベックでは、D.ブクステフーデによってオルガンのための前奏曲とフーガという組み合わせの作品が多く作られた。

 18世紀になると、単純で明確なホモフォニーの様式が好まれるようになった。イタリアでは、華麗に装飾された旋律にたいして、簡単な分散和音の伴奏(アルベルティ・バス)がつけられたギャランド様式が好まれた。古典派においては、組曲はもはや時代の趣味に一致せず、かわりにソナタが鍵盤音楽の中心になり、ヴィ―ンで活躍したJ.ハイドン、W.Aモーツァルト、L.v.ベートヴェンによってピアノソナタは高度に芸術的な作品となった。

 19世紀におけるピアノの改良とともに、ピアノ表現の可能性が増大し、F.F.ショパンやF.リストのようなヴィルトゥオーソの演奏家の手による演奏技巧に趣向をこらした作品がもてはやされた。ソナタ形式は拡大され、大規模なピアノ協奏曲が生まれた。家庭における音楽愛好家のための新しいピアノ音楽の需要も生じ、しばしばロマン派特有の音楽外の思想や情感、さらには標題と結びつく自由な小形式の作品、キャラクター・ピースが生まれた。

 

参考文献

久保田慶一 他 『音楽用語の基礎知識――これから学ぶ人のための最重要キーワード100』 東京:アルテスパブリッシング。

音楽の演奏形態(室内楽)

定義

 独奏楽器からなる小編成の器楽合奏。編成は2楽器(重奏)から9楽器(重奏)までが一般的で、ピアノ三重奏弦楽四重奏などがある。これ以上大きな編成は、室内オーケストラとよばれる。

歴史

 ルネサンス時代以降、王族貴族や都市の富裕層の人々が、宮廷や私邸で音楽を楽しむようになると、室内楽用の器楽曲が多数作曲されるようになった。また、バロック時代には、教会ソナタや室内ソナタとよばれる作品が作られた。なかでもA.コレッリのヴァイオリンのためのソロ・ソナタやトリオ・ソナタは、その後の創作の模範になった。

 バロック時代の終わり頃から、和声書法の充実にともなって、通奏低音がしだいにもちいられなくなり、室内楽そのものにも変化が起こった。たとえば、トリオ・ソナタにおいて、通奏低音チェンバロの右手が保管していた音を、ヴィオラが演奏するようになると弦楽四重奏のかたちになる。さらに古典派への移行期には、チェンバロ用独奏ソナタに、ヴァイオリンやチェロの伴奏が付けられた「伴奏つきソナタ」というジャンルが誕生し、ヴァイオリン・ソナタピアノ三重奏の成立を準備した。

 弦楽四重奏というジャンルが、古典派以降の作曲家にとって、交響曲とならぶ重要なジャンルになったことは重要である。

 ロマン派におけるピアノの表現と音色の飛躍的な改善は、室内楽にも影響をあたえ、R.シューマンやJ.ブラームスピアノ三重奏、ピアノ四重奏、ピアノ五重奏は、ピアノと室内楽の双方の可能性を追求した名作となっている。

 20世紀には肥大化した編成をもつ交響曲に代わって、AベルクやAシェーンベルクが室内オーケストラのための作品を書き、また、B.バルトークやD.ショスタコーヴィチは、弦楽四重奏の分野において、いっそう独創的な表現を実現した。

 

参考文献

久保田慶一 他 『音楽用語の基礎知識――これから学ぶ人のための最重要キーワード100』 東京:アルテスパブリッシング。

音楽の演奏形態(オーケストラ)

オーケストラ

定義

オーケストラとは弦楽器、管楽器、打楽器から構成されている演奏媒体

語源

古代ギリシア演劇の舞台と客席の間にある半円形の場所を意味するギリシア語の「オルケズトラ(踊る場所)」に由来する

歴史

 バロック時代にオペラが誕生したことに始まる。黎明期にはその形態や規模はさまざまであったが、17世紀後半から18世紀前半の時代には、フランスのヴェルサイユ宮殿のオーケストラにおける楽器編成が、広く手本とされた。そこでは弦楽器、オーボエ(2本)、ファゴット通奏低音からなる編成が標準であった。18世紀末の標準的なオーケストラ編成は、弦楽器、フルート(2本)、オーボエ(2本)、クラリネット(2本)、ファゴット(2本)、ホルン(2本)、トランペット(2本)、ティンパニーであった。このように管楽器が2本ずつの編成を「2管編成」とよぶ。トロンボーンはほんらい教会で使用された楽器であるために、オーケストラに最初に加えられたのは、L.v.ベートーヴェン交響曲第5番である。

 ロマン派の時代にはオーケストラの規模が拡大され、3管編成が標準的なかたちとなった。ホルンが4本という編成もごく一般的になり、G.マーラー交響曲では4管編成、I.ストラヴィンスキーバレエ音楽春の祭典》では5管編成となった。しかし第1次世界大戦後の新古典主義の時代には、古典派時代の編成が好んで採用された。

 

2管編成の楽曲

L.v.ベートヴェン 交響曲第1番

www.youtube.com

 

5管編成の楽曲

I.ストラヴィンスキー バレエ音楽春の祭典

www.youtube.com

 

是非聴き比べをしてほしいです。

 

参考文献

久保田慶一 他 『音楽用語の基礎知識――これから学ぶ人のための最重要キーワード100』 東京:アルテスパブリッシング。